対象疾患・手術
MICS(低侵襲心臓手術)
MICS(通称:ミックス)は、
小さな傷で行う体の負担の少ない心臓血管手術
●術後の見た目が気になりにくい
●術後の痛みが軽減する
●手術による出血量が少ない
●術後の回復・社会復帰が早い
●感染症のリスクが低い
●保険適応
MICS(低侵襲心臓手術)とは
これまで一般的に行われてきた心臓手術は「胸骨正中切開」といって、胸骨を縦に20〜30cm程度切開して心臓にアプローチしていました。そのため、術後の痛みや呼吸機能の低下などの影響があったり、胸骨が治るまで数カ月間は上半身を使う運動や労働を控えなければなりませんでした。
当院で実施しているMICSは、術式によりますが、左右どちらかの胸から脇腹あたりに3~7cm程度の切開(切開の大きさは患者さんの体形や術式によって異なります)を行い、肋骨の隙間から心臓にアプローチして手術を行います。
胸骨正中切開
MICS(右肋間切開の場合)
MICS(低侵襲心臓手術)の適応疾患
●僧帽弁形成術
●僧帽弁置換術
●大動脈弁置換術
●三尖弁形成術
●冠状動脈バイパス術
●心房中隔欠損症(ASD)
●心室中隔欠損症(VSD)
●心房細動に対するMaze手術
●心臓腫瘍切除術
●左心耳閉鎖術 等
患者さんの背景(年齢、生活様式、活動性、仕事など)や病状(重症度、動脈硬化の程度、合併症の有無など)、手術内容を考慮し、安全性を第一に考え、リスクが高くならない範囲で対応しています。
当院のMICS(低侵襲心臓手術)のメリット・デメリット
どの治療法にも必ずメリットとデメリットがあります。
患者さんの状態によっては、MICSではなく正中切開手術をおすすめすることもあります。
術前検査で適応をよく検討し、総合的に患者さんにメリットがあると考えられる場合にMICSをお勧めします。
メリット
●術後の見た目が気になりにくい
従来の胸骨正中切開では、傷が大きく残るため、術後も手術創が気になってしまう方もいます。
MICSの切開は胸骨正中切開に比べると、とても小さく目立ちにくいです。
●術後の痛みが軽減する
傷が小さく、骨を切らないので、胸骨正中切開と比較すると術後の痛みが少ない手術です。
●手術による出血量が少ない
手術中の出血が少なく、輸血の必要性も従来より低くなります。
●術後の回復が早く、運動制限がない
胸骨正中切開では、胸骨がくっつくまで、上半身を使う動きやスポーツを2~3ヵ月控える必要があります。
これに比べてMICSでは術後の運動制限が少なく、早い段階から運動したり、仕事やスポーツに復帰したりすることができるので、手術前に近いQOL(生活の質)を維持することができます。
MICSを受けた患者さんは、平均して術後 1週間程度で退院されています。
●感染症のリスクが低い
MICSは胸骨を切らないため、傷からの感染の心配もほとんどありません。
感染症リスクが低い手術のため、免疫抑制剤やステロイドを内服されていて、通常よりも感染症の起こりやすい方も手術適応となる場合が多いです。
デメリット
●手術時間が長くなることがある
MICSの手術は技術的には難しくなり、手術時間や人工心肺を回す時間、心臓を止める時間も通常より長くなる傾向があります。そのため、心臓の機能が著しく低下している方や、肺・肝臓・腎臓などが弱っている方は、MICSを選択しないほうがよいケースがあります。
●血管の状態によってMICSが行えない場合がある
MICSでは人工心肺装置の管を、足の付け根の血管に入れます。その血管が細かったり、硬かったりすると血管のトラブルが起こる可能性があります。そのため、手術前にCT検査を行い、血管の性状を確認します。
3D TE MICS(完全3D胸腔鏡(内視鏡)下小切開低侵襲心臓手術)
※「3D TE MICS」は、完全3D胸腔鏡(内視鏡)下小切開低侵襲心臓手術です。
3D TE MICSに対応しています。
当院では、2021年8月より「3D TE MICS」を施行しています。主に、僧帽弁形成術、僧帽弁置換術、大動脈弁置換術、三尖弁形成術、心房中隔欠損閉鎖術、心室隔欠損閉鎖術、不整脈手術、左心耳切除術の3D TE MICSに対応しています。
3D TE MICSは、直視下でのMICSよりも、さらに傷が小さくなります。(3cm程度) また、胸を広げる際に開胸器を使用しないため、患者さんは術後の痛みも少なくなり、術後早期に元の生活に復帰できることがメリットです。
胸腔鏡がとらえた映像は、3D4Kモニターに大きく映写され、術者は偏光メガネをかけることで手術部位を立体的に見ることができます。術者だけでなく、手術室スタッフ全員がモニターを確認でき、チーム全体が手術の流れをリアルタイムで把握することができます。
MICS-CABG(左前小開胸冠動脈バイパス術)
当院では「MICS-CABG」を施行しています。
CABGとは冠動脈バイパス手術のことで、 MICS-CABGとは低侵襲冠動脈バイパス手術のことです。
通常の冠動脈バイパス術は胸骨正中切開という大きな傷が必要ですが、MICS-CABGは、左胸を小さく切開し、弁膜症同様の 専用の器具で視野を確保しながら冠動脈バイパス手術を行います。
当院のMICSの実績
2021年8月より週一回を手術予定日としチーム医療を行っております。
2022年度は31件実施しました。
MICS (低侵襲心臓手術)の流れ・経過(一例)
患者さんの状態によって異なりますが、平均して手術後 7日程度で退院されることが多いです。
術前から体力の低下がみられる方などは、入院期間が長くなることがあります。
術後に詳しい手術説明を行います。
① 手術2日前に入院
② 手術前日
集中治療室をみて頂きます。
③ 手術当日
予定時間から手術を行います。
手術終了後、麻酔のかかった状態でHCU (高度集中治療室)へ入室します。
④ 術後1日目(手術翌日)
リハビリテーションを開始します。トイレまで歩くことも可能です。食事可能です。
⑤ 術後2日目〜3日目
一般病棟へ移動します。
リハビリテーションを継続します。
⑥ 術後5日目前後
術後検査を実施します。
⑦ 術後7日目前後
退院。(ご希望に添います)
MICS (低侵襲心臓手術)の手術費用
MICSの費用は、通常の心臓手術と同様に健康保険が適用されます。
「高額療養費制度」をご利用いただくことができますので、お手続きをお願いします。
高額療養費制度を適用した場合、自己負担額は、およそ5万円~20万円である方が多数です。
※費用は手術の内容、年齢、所得、保険の種類などにより変化しますので、詳しくは、病棟スタッフまたは医事課までお問い合わせください。
大動脈弁狭窄症の手術をお考えの方へ
大動脈弁狭窄症の手術には、開胸手術、MICS、TAVIがあります。
当院ではこれらの手術全てに対応しており、心臓血管外科と循環器内科が連携し、どの手術方法が最も安全・最適なのかを判断し、その人にとってベストな治療法をご提案しています。
●MICSについて
当院では、高齢者の重症大動脈弁狭窄症でもMICSを施行しており、良好な成績を収めています。
●TAVIについて
これまで、高齢者や心臓以外の併存疾患がある方は、外科手術の危険性が高くなるため、手術を断念された患者さんが少なくありませんでした。そこで登場したのが「 TAVI (経カテーテル的大動脈弁置換術) 」です。TAVIは重度の弁膜症の根本的な治療でありながら、これまで手術を諦めていたハイリスクの方も適応となる可能性がある治療法です。
チーム医療で患者さんを支えます
安全・安心な心臓血管手術を行うために。
心臓血管外科、循環器内科、麻酔科、臨床工学技士、看護師、理学療法士、臨床検査技師、放射線技師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、医事課スタッフなどがチーム一丸となり、高い専門性を発揮しながら患者さん中心の医療に取り組んでいます。